バカ野郎、死んじまえ!

 僕の病棟を30年前に退院した統合失調症70歳男が再入院してきた。今度は、認知症で施設でのケア困難、と言う事。大腿骨骨折後手術も拒否し、ケアする人に唾を吐きかけ、会話困難なのに、大声ではっきりと、誰にでも「バカ野郎、死んじまえ」とだけは言う。1日にスタッフ一人は殴られるというこの孤独のファイターの昔のカルテを見て驚いた。先ず、その頃の本人を悩ます幻聴が、「バカ野郎、死んじまえ」であった。そして、本人は「自分は周りに迷惑をかけっぱなしなので、そう言われてもしかたないのだ」と反省しきりの卑屈なまでに大人しく素直な「良い人」であった様なのだ。そして、退院時「またお世話になるかと思いますが、その時は宜しく」と退院した人であったのだ。退院後この人に何があったのかはカルテからは分からなかった。愛される老人になる事は難しく、元優しい患者が老後ファイターに変身して帰ってくることは珍しくない。担当する若い先生は「この人格変化を治したい」と意気込んでいたが、多分、変化した性格は治らない元精神病老人を看れる施設は限られている、という事は、また別の問題。