人間の尊厳

臨床では、患者さんを「人間として尊重することが第一」と言われているが、僕は実は未だにこの「人間の尊厳」とは本当の所はいったい何なのか、よく分からないでいる。確かに命は尊いが、人間が生きていることとゴキブリが生きていることに何か違いがあるのだろうか? 若い頃は、「人間の尊厳」の内容の大半は、宗教的な迷信か、詐欺師の法螺話か、病者への憐憫(優越感)ではないか。らい病患者の膿を口で濯ぐ行為は聖人の行為ではあっても、医者のすることではないと思っていた。患者さんには本来なら医療の技術で評価して貰いたいと思うけど、実際には患者さんは倫理を求める傾向が強いので、いつしか僕も倫理的な振りを装うことになった。初めは患者さんを侮辱しているような気になって後ろめたかったが、この頃は、それも礼儀である、と割り切っている。「そこは科学の領域ではない」とは今でもその通りと思ってますが、「人間社会は科学だけじゃ割り切れない」のも確かでしょう。「うそも方便」とは言葉が悪いが、「プラセボ効果」ならどうでしょう。それで患者が治るのなら何でもやりますやらせていただきます!!ってね。