入院患者さんの暴力

  長期入院中の統合失調症で、普段はもの静かな患者さんが突然興奮し、看護師長さんに殴りかかってきた。僕が呼ばれた時は、すでに4人の看護師に床に押さえつけられていて、それでも興奮が続き、「いつも俺の事バカにしやがって、電話も盗聴されてるのは知ってるぞ、おまえら皆殴り倒してやる」と叫んでいた。あぁまたか…と無力感がこみ上げる。スタッフは君の味方じゃないか、そんな事も分からないんだよなぁ統合失調症患者さんの社会適応困難の本質はこの暴力衝動にあると僕は思っていて、そしてこの暴力衝動は精神病でない人のと全く同じものであると思っている。だから僕の理論によれば、僕たちが患者さんたちの暴力を抑止出来るようになれば、人類は世界平和の方法を見つけたことになるのだが、その同じ衝動が生物の進化に貢献している可能性も高いのだ。
 喚き散らす患者さんの説得を諦めて、僕は隔離を指示した。「注射はどうしますか?」と聞かれ、注射の指示を出した。発動中の暴力衝動に有効な薬物などないと僕は思っているけど、注射をする、という行為がスタッフにとっても患者にとっても儀式的な効果を及ぼすことはあるのだ。隔離がトラウマになる、と最近のガイドラインには書いてある。でも僕は慢性の妄想による暴力の場合にはトラウマにはならず、むしろ隔離した方が患者の精神科病院という現実世界への再適応(というか妥協)を促すと信じている。
 時代の流れってのもあるんだろうけど、For the patient(患者さんのため)、僕は僕の信じる道を行くしかないでしょう。