病識のない患者への薬の飲ませ方

 入院したての患者さんの中には、薬を飲みたがらない人がいる。昔は上を向かせて、鼻摘まんで口を開けた所に水と薬を入れ、こんどは顎を閉じさせると嚥下反射が誘発されるので、それで薬を飲んで貰ったりしたが、最近はそういう手荒な事はダメなようで、只管患者を説得するのが主流である。担当者を変えてみたり、時期や場所を変えてみたり、それでもダメだと医者が呼ばれ、大人数で囲んで、薬を飲むか注射をするか選んで貰うことになる。患者に飲まない理由を聞けば、「剤型が気に食わない」、「粉にしろ」、「色が気に食わない」、「この大きい薬は変えてくれ」、「薬剤数を奇数にしろ」とか、投薬する側の工夫で飲み始めることも多い。副作用を言い立てて拒薬する人はあんまりいない。また、周りの患者が薬を飲むのを見ているうちに飲み始めることもあるので、2,3日は様子を見ても良い場合もある。医者がしゃかりきに強制するより、飲ませるのが上手な看護師さんやその患者さんのことを良く知っている看護師さんに任せると上手く事が運ぶようになることが多い。
 病識のない患者さんの大半は、病識のないまま服薬はする。服薬と病識はあんまり関連がないように思う。拒薬の患者さんは、病識の有無が問題ではなくて、以前に服薬に関連したトラブルがあり、それがトラウマになって服薬を怖がっていることが多い。しかし、そのトラウマを扱い出すと大変な労力が掛るし時間のムダになる(トラウマなど治る訳がないのだ)。現在の服薬に問題を限定し、少しでも患者が飲みやすい環境を整えることが大切なのでしょう。