医療費を払わない患者さん

 病院で医療費を払えない(払わない)人がいる。事務から「何とかなりませんか」と医者にも話が回ってくるけど、実際そんなこと僕に言われたって、僕にはどうしようもない。でも、確かに、長期入院中の患者の未払いは病院にとって深刻である。生活保護を受ければ良いのでは?と思うが、それが結構難しいらしい。家や土地があればダメ、親や兄弟から援助が期待できるとダメ、サラ金借金しているとダメ、などと、今や生活保護は国民の最低限度の生活を保障するのを止めた様子。本人の年金が保護者の家族の生活費になってる場合も多い。水際作戦、といって、福祉の窓口には、生保を申請させないようにする専門のスタッフがいる、というウワサも聞く。払わないからと病院を追いだす訳にも行かないし…、診療拒否と言われるのも不本意だし…。数年前、昨日別の精神科病院を退院したばかり、という患者が外来に来たことがある。聞けば、入院費未払いで追い出されたのだ、という。で、別れ際にその病院の人が、僕の働いている病院にでも行ってみたら、と言ったのだ、という。また、近所の救急病院のスタッフが、何も言わずに、僕の働いている病院のすぐ前で患者を下ろして去って行ってしまい、残された患者はアル中で救急車でその病院に連れて行かれ、「金がない」と言ったら、「良い病院を紹介してあげる」と言われて連れてこられた、と言っていた。また、近所の駅のホームレスがいよいよ金に困り、市役所に行ったら、2千数百円もらって、後は僕の病院に相談してみろ、と言われた、と来院したこともあった。3人とも、取り敢えず入院してもらったけど、結局皆未払いのままの退院となって、入院させた僕が事務に恨まれることになったのでした。昔は「経済措置」(お金のない人を重症として措置扱いにする)という入院があったんだけどなあ。
 医は仁術であるというが、医者(勤務医)は金には疎いものである。お願いされれば診察はせざるを得ないにしても、「金がないけど診てくれ」と正々堂々といわれても困る。特に腹が立つのは、「貧乏人は死ね、ということか」とか、「最低限度の生活は保証しろ」とか、居直る患者や家族である。また、治療に難癖をつけて、医療費を値切ろうとする輩も少なくはない。取り立て専門のようなスタッフを雇えばいいのでは、と思うのだけど、ダメかなあ、では、前払にするのはどうかしら?