逃げるが勝ち

 精神障害者の息子の家庭内暴力に悩み息子を殺した父が執行猶予となった事件で、息子の主治医が「医療保護は難しいけど、措置入院なら受ける積りだった」と裁判で証言したらしいが、その主治医の判断の正当性が医局で話題になった。A医師は「措置で受ける積りだったのなら医療保護でも当然受けるべき」と父に同情のロマン派。B医師は「家庭内暴力精神科医療の範囲外」と実務派。でも僕を入れて3人ともが不満だったのは、措置入院の運用の問題だった。「警察が動かないと措置入院とならない」のはおかしいと3人ともが常々思っていた。警察は現在、警察官が立ち会っても暴力的になる患者のみを通報するようであるが、これは措置入院趣旨に反するのだ。警察の現在のやり方なら、公務執行妨害で刑務所に入れるのが理論的だし、実際英米ではそうなった結果刑務所に精神障害者がうようよいる事になっている。現在の日の丸警察は、刑務所に入れるのが面倒くさそうな、検察で裁判にしてくれなさそうな患者を通報しているように見える。だから自殺企図患者が措置入院救われることもないし、今回の様な拡大自殺の様なケースも救われない措置入院制度は患者を救うシステムのハズなのに、患者を捨てる運用になっているのは実に気に食わないのでありますね。で、僕の何時もの最終結論で、「日本は法治国家ではない。法律で患者は救われない」となるのです。じゃあ精神科医が救えるか、となるとこれも難しい話になるんですよね、辛いネ。では父はどうすべきであったのか?−医局の議論の結論では「このケースは他の家庭内暴力のケースと同様、本人を残して他の家族皆が他へ逃げるが正解」となりましたが、さて世論はどうなるのでしょうか。