メンタルヘルスは怪しい

日本で自殺者が増えている。交通事故死者が年1万人を超えた時は、交通戦争と言われたが、今や自殺者は3万人(東京マラソンの参加者数に同じ)である。で、本年9月に政府も医師会も自殺予防のキャンペーンを行なったが、そのキャッチフレーズは、「お父さん、眠れてる?」であったことは記憶に新しい。

 ストレス→うつ病(不眠)→自殺、という自殺の3段跳びのようなものを想定して、眠れなかったら、うつ病になったら病院へ行こう、精神科へ行こう、そうすれば治療してもらえるよ良かったね、ということのようであるが、これを本気にしてもらっては困るのである。「うつ病は治療法が進歩して、今や治る病気になりました」が、大学の精神科教授連の口癖だが、騙されてはいけないうつ病は昔も今も周期的に良くなったり悪くなったりする病気であり、良くなるのは、ある程度自然なのであるが、自然にまた悪くなるものである。同じ先生が、「難治例が増えています」などとやっているのですが、うつ病はもともと難治例なのである。長嶋一茂はじめ多数の元患者たちが、「うつは医者には治せない、薬では治らない」と主張していますが、その通り、なのであります。うつの治療法が進歩した、というのは、抗うつ剤SSRIのことを指しているようですが、実は発売後10年経っても、未だに本当に効くのかどうか、が議論になっているくらいで、進歩したのは、薬の売り方(不安を煽って患者を増やす)だけのような感じなのですね。マスコミが製薬会社の悪口を言わないのは、彼らは大切なスポンサーだからなのでしょうかね(NHKも?)。知能や性格が医学ではどうにもならないのと同様に、メンタルヘルスも医学の手には負えないものであると僕は諦めている。仕事で過労でうつ病になる人は少数で、幾ら働いても元気でいられる人の方が圧倒的に多いのである。うつ病が労災になるのは、政府が法律で決めたからであって、医学的に証明された訳ではない。
 自殺予防も医学で可能であるという根拠はない。アメリカでは医者の自殺率は一般人口の倍で、精神科医の自殺率はまたその倍であるのだ。医者に自殺の予防が出来るなら、こうはならないでしょう。自殺を予防する薬なんかないし、SSRIではむしろ自殺は増やしてるように見える(自殺する元気が出る?)。自殺は人間の生物学的特性のようにも見える。
 自殺の素振のある人は入院させ、隔離拘束すればよいではないか、と非専門家は(平気で)言うであるが、うつ病で、生涯自殺率(いずれ自殺する)は2割に過ぎない。つまり、大半のうつ病者は自殺しない。リストカッターもしかり。素振があるから、と入院させていたのでは、キリがないし、効果的でもない。自殺は入退院の直後が好発時期である。無理に入院させても、今度は退院自体が自殺のリスクとなってしまうのである。そして、隔離はむしろ禁忌で、こっそり持ち込んだり、下着を破いて作ったりした紐で首を締めるし、壁に頭をぶつけるし、舌を咬む。トイレの水で窒息死した例もある。拘束はどうかというと、その拘束具(布性の紐:手錠や猿轡は使えない)が凶器となる。本気になれば縄抜けは結構簡単に出来るようで、緩まない布はない。で、英米では個室に収容し、24時間マンツーマン、フェイスツーフェイスで観察させるようであるが、それでも観察者を振り切って逃走し自殺する例が後を絶たないという。入院中の自殺者で、病院側のミスと判断される例は、英米では2割に満たない(日本では裁判になればほぼ全例が病院側の過失とされるが…)のである。
 そもそも本気で自殺するつもり人は、医者に素振は見せないものである。僕の患者で自殺した人は60例を超えるが、自殺前に僕が自殺の気配を感じた人はたった4人にすぎない。一般救急の場では、自殺のハイリスク者は、自殺の方法や時期を言うとされているのであるが、僕の経験では、それは怪しい。自殺の予防法で良く言われる「自殺しない約束をさせる」は無効であることが分かっている。
 うつ病や自殺は、医学的な疾患ではなくて、社会的な現象ではないでしょうか? 多重債務者の自殺、いじめによる自殺、過労死、尊厳死。種々のストレスが起こす自然な(生物学的な)反応の1つ1つを病気にしていたらきりない(製薬会社はそうしたいのでしょうが…)。じゃあ貧困は病気ですか? 暴力は…戦争は、男女差別は病気ですか? 
 僕は、自分の事は自分でしよう、と言いたい。人間以外の動物は皆そうしている。うつ病や自殺問題の責任を精神科医に擦り付けるようなことはやめて欲しいものである。
とまあ、不満をまた言ってみました。聞いてくれてありがとう。