精神病者の暴力

 
 慢性精神障害者のメタ・症状

  1. 陽性症状(エピソード関連症状、残遺症状)
  2. 気分変化(躁・うつ・焦燥・不機嫌)
  3. 陰性・自閉(2重見当識、個人神話、性格変化)
  4. 突発的短絡行動(反社会的行為・暴力/自殺)
  5. 認知症状(痴呆類似症状、滅裂状態)

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  昔は「精神病者は何をするか分からない人で、怖い」と言うのはマスコミの偏った報道による偏見で、実は彼らは静かで大人しい人間であり、施設に閉じ込めて置くのは可哀そうなのだ、と教えてもらった。しかし実際に僕の見た精神科病院の中にいる患者の人たちの中には、怒りっぽくて暴力的な患者も少なくはなかった(2〜3割)。長期に入院している患者さんは、一見大人しく見えても、以前に大きな事件を起こしている人もいて、また、突然暴れ出す人もいてビックリしたものだ。退院できない人の退院出来ない理由は、病気の症状そのもの、また周囲の病気に関する偏見よりも、その人の暴力的な経歴のために家族内の人間関係が問題となっていることが多いのである。
 最近の北欧などの精密な統計的なデータによると、精神病者は一般人口に比し明らかに暴力的であり、凶暴であることが分かってきている。僕としては、「やっぱりね」という印象であるが、それでも、学会などでは、「暴力的なのは治療をしてない精神病者であり、薬物中毒の合併した患者である」と歯切れが悪い。
 精神病者の地域での医療促進を言う人は多いが、彼らは患者が暴力的になりうることを忘れているようである。実際に1970年代に脱施設化政策をとったアメリカで起こったことを見れば、退院した元入院患者達の最大の問題が暴力であることは自明であるはずなのである。元入院患者達はホームレスとなり、半数は野垂れ死に、半数は刑務所に入ったと言われている。その後もアメリカの刑務所にいる精神病者は増え続け、今や刑務所入所者の半数は精神障害者であるという。どうしてまた入院させないか、というと、入院費が高くつくから、としか考えられないが、精神科病院より刑務所のほうがまし、と思われているのかも知れない。
 E.フロムの昔からM.ヴィヴィオルカの現代まで、暴力に正常と異常を区別し、異常な暴力を精神病者によるものとすることが続いているが、僕に言わせれば、暴力は暴力であり、精神病者の暴力も非精神病者(正常者?)の暴力も違いは見られない。どちらの暴力も人間関係を破壊するのに違いはないし、暴力の責任はその暴力を振るった人が取るしかないと思う。幻覚や妄想が暴力に関係することが有ることは確かであろう(慢性患者で3割くらい)が、非精神病者の空想(ジハード、サドマゾ、マッチョ、フツ・ツチ)だって引けは取らないはずである。強烈な幻覚妄想の中でも、暴力を振るわない患者の方が圧倒的に多いのである。暴力は人間の(潜在的、本能的な)能力であると思う。地域で生活出来るかどうかは、その人が精神病かどうかで決まってくるのではなく、その人が暴力的衝動を我慢出来るかどうかで決まってくるのだと思う。暴力的な人の権利を云々することも必要ではあろうが、それは医者のやる事ではないと思うがいかがなものであろうか?精神病よりも暴力の方が、根が深いのである。