うつ病は脳障害か?

うつ病は脳の病気なのですか?」と良く聞かれる。これは答え方が難しい。先ず、うつ病、脳の病気、の定義が難しいし、その定義の仕方によって、答えも変わってくるからだ。答え方を間違えると医者・患者関係がこじれることにもなる。大抵の精神科医は、うつ状態などの気分の変動のメカニズムが脳の神経ネットワークの変調にあることは間違いないと信じているが、この変調の証明も難しいから、どの教科書にも「うつ病の原因は不明」となっている(原因が不明なら病気かどうかも不明のハズ、と思いたくなるが、歴史・社会的に現在・大半の国では、うつ病は病気である、という事になっている)。一般に病院は病気の原因を追究し、原因を治療する所であるので、精神科にも同様の事を期待するのであろうが、精神科では原因の追究はしない/出来ないのである。以前は、来る患者さんが「脳の病気」と信じているようならその方向で、「病気ではない」と信じているようならその方向で、方便として色々説明してみたけど、どっちにしても論旨に矛盾が出て、返って患者さんに不信感をもたれることになった。そして、実際うつ病の治療の為には、原因追究は余り必要ない。むしろ本人の原因追究意識は治療の邪魔になることが多い。患者は後ろを向き過去を盛んに後悔するが、その後悔自体がうつ病の症状であり、原因追及は患者を深みに落とすことになる。だから最近は「うつ病は脳の病気なのですか?」と聞かれたら、「先ず、薬を飲んでから考えましょう」と言うことにしている。