宗教は妄想か?

 所謂宗教の教える種々の神様や悪魔達と精神病患者の妄想の中の神様や悪魔達は同じなのか違うのかが良く議論される。イラクサダムとUSAのブッシュがお互いの宗教を精神病呼ばわりしたことは記憶に新しい。イギリス・オックスフォード大学の進化論学者リチャード・ドーキンス神様を信じる事は科学と両立不可能で、神様は全て妄想であると断じている。「もし宗教が妄想なら、精神科的治療で宗教に何らかの変化を起こす事は可能なはずである」−若いころの僕はこんな仮説を持っていて、特定の宗派の宗教を持っている患者を治療する時には慎重に検討したものだ。検討例は十数例にすぎないけれど、結論は、残念ながら宗教には抗精神病薬も効果がないし、他の治療も効果はない、ということだ。かなり怪しい新興宗教の相当あからさまな詐欺に会っていたとしても、入院時には「もうその宗教とは縁を切ります」と言っていても、退院し暫くすると元通りにその怪しい道場に通い出すのがパターンなのであった。精神病で教祖の幻聴が聞こえ、治療で聞こえなくなったとしても、その後もその宗教を信じ続けるのが寧ろ普通のようであった。最近の諸宗教は精神病を病気と認めるようになっていて、余り治療の邪魔をしなくなったので、こちらも宗教を余り敵視しないようになっている、という事情もあるけれど…。で、治せないんじゃしょうがないから、患者の宗教は、個人のプライバシーとして黙認するしかないのですが、治せないから妄想ではない、とは言えないと思っています。患者の信じる神様達は、病気の誘発する妄想のもっと奥にあって、薬も届かない心の奥の奥から患者を動かしている、という様に感じています。その内天才的な精神科医が出現し、宗教も治療出来るようになれば、その時は、世界平和がやってくるのだろう、と夢想するのです。