患者さんに妄想を持たれてしまった

 単身で生活している50歳統合失調症男性。この頃態度が曖昧だ、と感じていたら、この前の外来で「先生にもらった薬のせいで僕はガンになってしまった。この病院では真実を言って貰えないので、今別の病院で精査して貰っています」と言われてしまった。「やっちまった、患者に妄想を持たれちまった」と、こっちは焦ったが、患者はムシロ余裕綽々で、服薬してるかどうかにもノーコメント。<患者に妄想を持たれる>ってのは、患者の妄想世界に無理やり引きずり込まれることで、結構シンドイ体験なので、熟練の看護師でもそれが原因でバーンアウトして仕事止めたりする位なのだ。これを患者から面と向かって言われると、その後の治療は先ず上手くいかないので、早目に主治医交代が望ましいと思われるのだ。
 今迄十数年間、結構上手くいってたと思ってたのに、今さらカヨ…と残念無念なのだけど、この<上手くいってた>てのがこっちの妄想であったのだ、と思い直すと、思い当たる節も色々出てきて、「妄想を持たれる治療者は脇が甘い」という昔のオーベン(上級医師)の言葉が思い出され、また以前同様に妄想を持たれた患者のその後の暗い結末(お互いの)を思い出し、お決まりの「精神科医は報われない」という独り言になるのでありました。残念ね。