お墓の決まっている患者さん

 最近入院になった65歳男性は、東京の人で、数年前から東京の生活保護を受けながら当県の某施設(所謂無認可老人ホーム)にいたのですが、ボケてきて、その施設でケア困難になって、当院を紹介されて来た人なのですが、保護者もいないし、親戚もいない天涯孤独の人でした。退院後の受け入れについて聞くつもりで、「今後の事は、、」と話し始めた僕に差し出された物は何とお墓のパンフレットで、その施設の人の言うことに、「この人はこのお墓が予約済みで、いつでも利用可能になってます」とのことで、ビックリでした。
 仕事仲間のケースワーカーに聞いてみると、何とお墓は結構な重大事で、「身寄りのない人が死ぬと、骨にするまでは何とかなるが、お墓が困る」と言うことでした。あとで担当の東京のケースワーカーにも聞きなおしたのですが、「東京の生活保護の人で施設が必要な人を受け入れてくれる施設は関東、東北に結構あって、大抵はそこで臨終を迎えるので、その時の為にお墓を準備しておくと各施設の受け入れが良い」、ということでありました。「そちらで骨にしておいていただければ東京から担当の者が取りに伺います」ということでした。普通、医者が「今後」と言えば「退院後」のことで、まさか「お墓」の話が出るとはネ、さすが東京、手回しが速い、と誉めるべきだったのか、命の軽視だ、と怒るべきだったか、どうか、今でも悩んでいるのであります。