病院スタッフは保証人になれるか?

 僕の担当の入院患者の中には。連帯保証人のなり手がいないばっかりに退院出来ない人も多い。彼らは、院内では大人しく、生活も問題なく、スタッフに迷惑を掛けない素直な人であるので、「私が保証人になるからアパートに退院させてあげて下さい」と言うスタッフも出てくるのですが、僕は、「止めといた方が良い」と言うことにしているのです。「NPOのもやいの湯浅誠さんは、成功率95%ということ(岩波新書、反貧困)なのに」、と反論する人もいましたが、僕の反対の理由は、実は、僕がそれで痛い目に会っているいるからなのです。僕がまだ若くて理想に燃えてた頃、入院患者の退院先のアパートの連帯保証人になったことがありました。全部で5人きりですが、うち4人は2年以内に再入院となり、残りの1人は3年後に酒の飲みすぎで死んでしまったのでした。あと、保証人のいらないアパートにも数人退院させたこともあるのだけれど、これもやはり数年以内に全滅でした。退院前は皆問題行動などなかったのに、退位後、最終的には皆、近所に多大な迷惑をかけ、大家も困り果て、警察や親籍を煩わせての再入院、というお恥ずかしい結末でした。そして、皆、単純な病気の再発、ということでなく、例えば飲酒、例えば借金窃盗暴力、といった、病気と余り関係のない要因が再入院に関連していたようでした。関係者に、「先生が保証人なんだから何とかしてくれ」と責められたことを今でも良く覚えています。
 スタッフには、病気以外のところは見えないのです。「世間の風は冷たい」と良く言われますが、幾ら病院の中(温かい環境)で適応出来ていても、その冷たい風に耐えられるかどうか、を、患者の人間関係などを含む生活環境まで考えて、退院の可否を検討しなければならないと考えます。保証人になってくれるような人がいる、ということはその冷たい風のバリアになってくれる人がいる、ということなので、だから、いない、ということは、その冷たい風をもろに受けることなのだ、と思い知った訳でありますネ。
P.S.精神科医報われない仕事なのでありました。