また同僚が自殺した!

 近所に開業して3年。評判も良かった元同僚(52歳)が急死した。葬式に行って分かったのだが、遺書が有り、覚悟の自殺だった。僕が体調を崩した頃、同じように不眠と動悸を訴えていて、「お互い、因果な商売ですね。患者からうつがうつされましたね」なんて言っていたが、彼は、開業すれば仕事は楽になるはずだ、と思っていたようであり、1年前に会った時にも、「毎日外来は辛くないかい?」と聞く僕に、「無理やりやらされる仕事よりは数段楽だね」と言っていたのである。知人の精神科医の自殺は彼を含めもう5人である。全く、いやな仕事を選んだものである。前も書いたけど、精神科医としての知識が自殺予防に役に立たないってのは、本当なのだ。うつはかなり回復したハズの現在の僕でさえ、自殺の話を患者から聞くはイヤだ。でも聞かなきゃ仕事になんないから、しぶしぶ聞く。すると、次の日の体調が悪くなるのが分かる(直ぐには影響せず、次の日あたり、忘れた頃に響いてくるのが、うつのストレスです、皆さんも気を付けて!)。患者は20分位しゃべって、「すっきりした、聞いてくれてありがとう」で、お終いだけど、こっちは次の日までブルーが続くのだ。「割りが合わないなぁ」とホントに思うのです。うつになる前は、「死ぬ前に、死ぬ気でガンバレば、どうにかなることもあるんじゃないの?」なんてお気楽に思ったりしてた自分は未熟でした。生きるのが苦しくて、ひとつ息を吸って、次に吐くのが苦しくて…なんて書き出すと余計落ち込んじゃうから思考停止。
 うつがうつらないようにする技があります。先ず、物理的に患者と距離を取る(余り露骨にすると患者にバレるから注意深く)。で、話の内容を把握しようとせずに、声として、雀やカラスの囀りとして聞く(患者には失礼なのは重々承知していますヨ)。そして、患者が話終わった時、先ず、苦しんでいるのは、僕じゃなく、目の前にいる他人なのだ、と自分に言い聞かせることです。患者には済まないけど、患者とは、(自殺した)精神科医にとっては加害者のようなものだからね。そして、精神科医消耗品だからね。
 うつ病患者にとっても、傷を舐め合う、というのはアンマリ良いことではナイはずです。患者の弱点には触らない、というのが正しい精神科医療のありかたではないか、と、(半分くらいは)本気で思うのでありますね。