経過の良い患者さんの特徴(1)

 精神科の医者になりたての頃、また、治療の勉強を一生懸命してた頃は、医者の言うことを良く聞いて、医者に指示された薬を指示された通りに服用し、何でも重大で心配なことは全て医者にアドバイスを求めることが、具合の良くなる秘訣であると信じていました。今でも、新書なんかでその手の本を読むと、皆そう書いてありますね。…しかし、実際に臨床経験20年の経過をまとめてみると、経過の良い精神病患者は、決して僕の言う事を良く聞く人たちではなかったのでした。経過の良い患者(最近は精神科サーバイバーと言うらしい)は、自分勝手に薬を飲む人で、人生の大事なことは、医者になんか相談せずに自分で決めるような人であったのです。勝手に結婚し、勝手に転職し、勝手に医者を替えるような…。病院にくるのは、「自分で決めた自分に必要な薬を貰うためだけ」、であるような人が実は経過がかなり良いのでありました。彼らは、医者にプライバシーを話さないし、僕の事を「話の通じないやつ」と軽蔑してさえいそうな人であります。彼らに比べると、僕の言うことを良く聞いて僕の指示通りに行動していた人は、残念ながら長期経過は見劣りがするのでありました。僕にとっては悔しいし、僕の指示に良くしたがってくれた人には実に済まない気がしています、がこの現実は認めざるを得ない、というのが現在の僕の心境であります。 「医者の言うことはアブナイ」、は新興宗教やアヤシイ商品を売りさばく人たちの手口であるので、認めるのはイヤではありますが、例えば、「医者が患者をだますとき、ロバート・メンデルソン草思社、1999」や日本人では近藤誠先生の著作を読むと、やはり、医者はアブナイと書いてありますよね。医者の言うこと聞いて後悔している患者は山ほどいるし(精神科医はいらない 下田治美)、彼らの担当医が皆藪医者だった、ということでもないようなのであります。
 で、僕は最近は患者の意向を最大限尊重するようにしているのですが、その方が経過が良い、という訳でもなさそうな所が問題なのですね。つまり、治療してもしなくても治るやつは治るし、ダメなものはダメ、と言うのが結論になりそうです。つらいなー。