共感能力

 「精神科医には、誰の話も良く聞けて、優しく同情できる能力があるべきで、その点僕は失格なのだ」と僕の身内は口をそろえる。確かに僕は概して他人に優しくないかもしれない、と、自分でも思う時がある。仕事以外ではなるべく余計な話をしないし、患者さんとの会話でも、必要最低限で話終わるように心掛けている。自分ではそれは生活の技術と思っているのだが、相手は低能精神科医、と思うのかもしれない。口八丁手八丁の人が名医であるとは限らないと思うのだけど、医者として、患者さんへの共感能力が必要だ、というのは研修医相手の本にはよく書いてあるが、詐欺の手口を教えているようで感心できない。僕の同僚は、「うつはうつ同志で、うつの患者の心は良く分かるんじゃないの」と言うけど、残念ながら、うつを経験したからと言って、うつの治療が上手になった気はしない。本音を言えば、精神科医のする精神療法、心理療法は、誰がどうやっても効果は同じなんじゃないかという気がしている。一般社会でも、コミュニケーションが大切、なんて言うけど、ホントはお金の方がもっと大切なんだろうと(密かに)思っている。話し合って解決出来ることなど、たかが知れている気がするノダ。僕の患者さんには、孤独に耐えられる力をつけて貰いたい、と思っている。自分の病気は自分で治そうよ、ね。