寿命について

今日、80歳の僕の患者が死んだ。医者は寿命を操作することはできない、と思う。外科医に有名な諺で、「手術は医者がするが、治すのは神」というがあるが、つくづく本当のこと、と思った。その患者は、脳卒中を繰り返し、半年前、せん妄で僕の所にやって来た。その時は、元気すぎるのが問題、くらいに体は元気であった。それが、3か月で、別に何が有った訳でもないのに衰弱し、寝たきりになり、死んでいった。確かに心臓に問題はあったが、心臓の発作や脳卒中が何回あっても、切り抜けてきた人であったのだ…
 こういうのを「寿命」というのでありましょう。80歳では、寿命としては十分ですよね。僕は精神科医だけど、周りの心臓や脳血管の専門科医も、同様の意見でした。治療は上手くいっていたんです…
 同じ病名で、同じ症状で、同じ治療を同じ医者がするのに、助かる人と死んじゃう人がいるのはどうしてなんだろう。科学的には偶然ということになるのだろうけど、偶然って何だろう…
 僕は、医学の治療と寿命は別物のような気がしている。致死的な病気でも医者に罹らずに治ってしまう人がいる、ガンが消えちゃう人がいる。そうかと思えば、麻酔かけただけで死んじゃう人は確実にいる(10万人に1人)し、ワクチン摂取で死んじゃう人も(10万に0.5人)いる。
 考えて見れば、人がどうして死ぬのか、本当の所は、分からないままである。精神的なストレスで死んじゃう人もいるようだし、どうも寿命は未だ科学の手の届かないところなのでしょう。自殺したくて5階から飛び降りて体中骨折しても生きている人がいるし、首つり後1時間も放置され心肺停止してても復活する人がいるし、灯油かぶって火をつけても死ねなかった人も多い。一方で、盗み食いしたパンで窒息死したり、すべってベッド冊に頭打ち付けて死んじゃう人もいる。突然死の原因は解剖しても8割位は不明のままである。動物実験で、薬物(毒物)を飲ませて致死量を調べる実験をしたことがあるが、毒を幾ら飲ませても死なない個体があり、全滅させる毒物の量を確定するのは難しかった。死ぬ運命にあるものと、そうでないものとがあるんだと思う。そして、治療と寿命は、全く別物であると思う。医者は寿命は何とも出来ない、と思う。医療で救える人の第一条件は、寿命の尽きてないことである。