後ろ向きの運命

 一般に人間の運命は眼前に開けてくると考えられているが、統合失調症患者の運命は大抵は分かってしまっている。初めの1,2回の精神病エピソード(急性の症状悪化)状態の時に患者やその家族が体験したことが、数十年後の患者本人の人生と2重に重なってくるのである。有名なD.P.シュレーバーは、ある日、神様が眼前に現れて、彼は感激するのであるが、その神に「あばずれ」と怒られ、素気なくされる、という体験をする。その後回復して退院した彼は、彼の全神経に神の愛が充満していると確信するようになり、神の女として女装し、妻に愛想をつかされても鏡の前に座り続けることになる。シュレーバーは神への片思いのために周囲に嫌われ、人生を終わることになるのだ。人生の絶頂はすでに過ぎ去ってしまい、「後は転げ落ちるだけ」の人生、と言われると、カナリ悲惨そうに聞こえるが、大抵の精神病者も、若い頃の見果てぬ夢を追い続け、結果的には「後は転げ落ちるだけ」の人生なのではないだろうか?「運命は眼前に開ける」という方が妄想のような気もしだしている。「生まれたら後は死ぬだけ」は仏教の教えかも知れないが、遺伝学の法則でもあるだろう。人間全て、後ろ向きの運命なのだ。これがRufus Mayさんに対する僕の感想です。