認知症患者の前胸部痛

76歳女、糖尿病でS Dr(2014.2.25にも登場)通院中。「胸が苦しい」と不穏になり、当院受診。ちょっと認知は有りそうだったけど、まあパニック発作だろうとSSRI処方し、安定した。「同じ薬処方して貰ってね」と帰したのが2年前。で、最近、同じ症状でまた来院した。今度は循環器のM Drから。この2年間、あちこち医者を廻りめぐって、ペースメーカーを入れられ、狭心症の診断が増え、M Drの所へは「心筋梗塞疑い」で救急搬送されたとのこと。M Drでは、心臓のフルコースの検査の後、「異常なし」で、当院を紹介してきた。ビックリして処方を確かめたら、やっぱりSSRIが入ってない(循環器系の薬は山盛り)。直接S Drに確かめたら、「あら、そうでしたっけ」でオシマイ。で、認知は明らかに進んでいる。家族は告知されていないと言うが、処方にはしっかりメマリーが入っていた。S Drでは1日1回営業時間中に限り、ビタミン剤の点滴を受けていた(タクシーは無料らしい)。・・・この辺の開業医は皆で寄ってたかって年寄りを食い物にしている・・・

あやしい突然死

 69歳男、慢性統合失調症。50歳で断薬後、自宅でそれなりに隠居生活していたらしい。65歳で慢性腎不全で、D病院で透析を始めた。3か月前に心不全でD病院に入院し、「入院中に精神病を再発した」との触れ込みで先週当院に転院してきた(D病院は強制退院)。数日後のNsセンターでは「再発と言うより夜間せん妄」では、との異見。確かに精神病らしくないねと主治医(僕)も思い始めた矢先に、突然死してしまった。「身体的には全く問題ない」と前日透析先の担当医が保証したばかりなのに…。さらに、だとすれば、これは異常死だと思うのだけど、当直医が家族と交渉して「病死」との結論を出して、そのまま葬儀屋さんへ。主治医には何の相談もない。法律的にはこれで良いのだそうだけど、ホントにイイノカナ?これで。

こわい夢をみた

大勢に追いかけられている。暗闇を一生懸命逃げるけど、後ろを振り向いた途端、ナイフで左胸を刺され、僕は倒れた。…暗闇。場面変わって、また逃げている。今度は突然前に立ちはだかった人がナイフで僕の左胸を刺した。場面は真っ赤に染まった。…また場面変わって逃げているけど、後ろから左手を掴まれて倒されて、ナイフを持った人の笑い顔がアップで迫ってきて、「ギャー」と叫んだ所でベットから飛び起きて、眼が覚めた。汗だくで、荒い呼吸。隣でビックリした妻が「どうしたの」と電気をつけた。「生きてて良かった」と先ず思った。夢だった事を理解するのに数秒かかった。僕を刺した3人の女性が皆ウチの病院の看護師長だったことに気づいたのは、1日経ってからだ。その後数日間は、どうして刺したのか、彼女等に会う度に聞いて見たくて仕方なかった。

入院患者のいじめ問題

精神科療養病棟にもいじめ問題がある。医者の目の前で、堂々といじめゲームが繰り広げられている。ゲームの主役はジャイアン君。ジャイアン君は、病名は色々であるが、外の世界では彼の障害の為にいじめられていた既往を持つ。のび太君の方も病名な色々であるが、生活能力の低さの為に長期入院中で、日常生活イチイチに介助が必要なので、スタッフとの接触が多くなる。はじめは、ジャイアン君はスタッフのマネをして、のび太君の世話をしている様に見える。それがいつの間にか、イジル感じになり、何時の間にか「いじめている」事が明らかになる。病棟に、いじめは無くならない。どうしたって無くならない。演じる患者は変わっても、病棟内には常にジャイアンのび太はいる。でも実は、彼らの最大の問題はそこにはない。問題は、彼らはどっちにしても、もはや退院不可能だ、という事なのだ。「弱い物同士、お互いに助け合って、励まし合って生活すれば良いのに」と思うけど、どうしてそうならないのかは不思議である。また、患者のいじめが問題になる時は、たいてい病棟スタッフ同志の人間関係の問題が顕在化してくる。だから、いずれにしても、患者のいじめ問題は医者の手に余る問題に発展して行くのであります。

精神科病院での暴力被害

「暴力は精神科」という偏見で、人間の暴力に関して勉強せざるを得ない。暴力大陸アメリカでは、拳銃問題にしても、暴力は確かにどうしようもなく「下劣」な問題だけど、その暴力の統計に関しては、きっちりしている。暴力被害者は、1993年には8%だったのが、2014年には2%迄減っている。でも、こんなに多いんじゃ拳銃持つのも止むを得ないと思う。で、問題は、医療の現場でも「普通の精神科開業医は引き出しに拳銃を隠している」事だ。ワークプレイスバイオレンス、と言って、勤務時間中に暴力被害にも統計があって、平均が、0.03%(1万人に3人)なのに医療現場では0.2%、精神病院では1.4%となっていて、確かにこれじゃ何か対策が必要だろう。去年ANA(アメリカ看護師協会)が現場は戦争状態である、と宣言したのも了解される。医療フタッフは暴力に丸腰で対応しているのだから。イギリスでも現場のNsの8%が暴力被害にあっているという。さて、日本ではどうなっているのか?全体では2013年で0.03%であるが、医療現場となると、統計はない。精神科病院スタッフにアンケートを取ると、過去1年間に2-3割、という文献が多いが、アンケートではデータにならないと思う。当院では数年に1件位で、0.1%である。ANA並に何か対策をした方が良い、と僕は思っている。

5人抜き

 認知症の患者が寝たきりになり、意識がもうろうとする時間が増え、嚥下が困難になってくる。そうなると人生の終末期だ。家族と相談し、「点滴などしない」となると数ヶ月でご臨終となる。「点滴くらいは、、」となるとまだまだ先は長くなる。でも、それでも、血圧が下がって来たり、オシッコが出なくなって来たり、抹消血液の酸素飽和度が下がってくると、希望者には家族に付き添いをして貰う事になっている。その付き添い可の患者がこの頃は5人。アンマリ付き添いが長いと付き添う家族も疲れてくるので、タイミング良く予想しなくちゃなんだけど、これが結構難しい。先日、Sさん80歳が肺炎をこじらせて、バイタルがおかしくなってきた。「家族にお話をしますか」と師長に催促されたんだけど、家族の座るイスもないので、、と決断が着かないうちに急変し、あっさり逝ってしまった。「連絡が遅れて恐縮です」と迎えに来た長男に言ったら、「イサギヨクって良いんじゃないでしょうか」と言ってくれたので、ホットしました。「5人抜きは近来にない快挙でしたよ」と返そうと思ったけど、止めました。Sさん、競馬が好きだと言ってました。
P.S.今日のサッカーはナショナリズムに燃えましたネ。でも、審判がサウジに厳しかったので、ちょっとケチのついたナショナリズムでしたケド。清武さんの足首が心配です。

医者の病識

精神科医が精神病になった時、自分に正しい診断が下せるか?実例が石田昇(長崎医専精神病学の初代教授)先生。アメリカ留学中に統合失調症を発症し、被害妄想で同僚を射殺し、責任無能力であちらの精神病院経由で松沢病院に送られた。秋元波留夫先生が「先生は自分を精神病と思っておられるのですか?」と聞いたところ、「他の人が言ったら妄想だろうが、自分が言うのだから本当のことだ」と答えたと言う(出典不明)。この「自分は正常だ」が精神科医をも含む人間の限界だと思う。人は皆、自分が一番だと思っている。僕も、自分以外の人には、何らかの精神病理学的特徴を診断出来る自信がある。生物は総じて自分を客観視できないようになっているのではないか、と思う。「飛んで火に入る夏の虫」が生物学的に正常なのだ。こころが主観的なものである以上、こころの正常/異常は全く主観的なのもであるしかない、というのが正しいような気もするが、そうなると、精神医学は科学として成り立たない事になってしまう。だから、医者に病識が有るかどうかは、試してはイケない領域になるのではないか…どうしてコンナ事考えたか、と言うと、先日、患者さんに「先生こそキチガイ」と言われたからで、そんな事言われるのは毎度の事なんだけど、なぜか今回はマジに「そうかも知れない」と思ってしまったからなのです。