「僕は妊娠した!」

50歳の統合失調症のM君が、数十年前から時々妊娠するので対処に困っている。男の妊娠妄想は結構いて、でもきっかけは普通は肥満とか便秘とかなので、そちらの治療をすると自然に訴えなくなるんだけど、M君の場合はそうはならなかった。カルテによると、初めにその訴えがあった時、婦人科の先生に対応してもらった時、数か月に渡るM君の猛攻撃に耐えきれず、先生が「何時でも生まれそうになったら呼んでくれ」なんて言ってしまったらしい。それでその後は数年おきに思い出したように、「生まれる。医者を呼んでくれ」と騒ぐ事になってしまった。つい最近も、夜中の2時に廊下で「生まれる!」と騒がれて、新人Nsが「男が妊娠するはずないでしょ」と禁句を言ってしまった。M君はそう言われると何時も「生んでやる!」とヒートアップするのですが、今回も、保護室入室に至ったのでありました。前回は、レントゲン写真を撮って「居ないだろ」とやって見たけど、ダメ。前々回は、聴診器を当てて「居ないだろ」とやってもダメだった。M君は、18才の発病が包茎手術の後で、再発の度に「自分は男なのか、女なのか悩」んでいた人であってみれば、その妄想は触ってはイケナイ所なんでしょうけど…。実は僕も以前その禁句をつい言ってしまって、先輩に窘められた事が有る。その先輩曰く「妄想は須らくマトモに相手にしない事」だった。でも、僕は「相手にすることで本人のホントの悩みが出てくるハズ」と反論したけど、当時は僕は若かったね。