父の決断

 K君もW君も父子家庭で、いわゆる社会的入院。K君はこの10年で4回入退院を繰り返していて、今度の入院後3年になる。以前はK君の幻聴が移って、父子で転居を繰り返した程の息子思いの父75歳は、最近はくたびれてきて自身が介護保険を受け、また車の免許も返上しようか、となってきて、今回外泊前に皆で集まって今後の相談。K君は「今何処も悪くないし薬は続ける」と殊勝であるが、本人のQOLを考えて「入院継続」の父と、本人の希望を尊重して「退院」のケースワーカー。無能の主治医(つまり僕)は間に立って無言のままで、結論は持ち越しになったが、2日の外泊後、父はついに「自立させる方向で」と考え直した。「自分の死後のことも考えて」、と言っていたらしい。
 W君は家庭内暴力で入院し、父が定年になるまでの約束が長引いて、今年15年目。月2の外泊が月1の面会になり、最近はその面会もないのでW君の不満が募る。その父がW君の兄を連れてケースワーカーに相談にやってきて、急遽関係者が集まった。W君の父は76歳でどっかの癌の末期なのだが、それを息子に言えずに、「もう死ぬまで息子には会わない、退院は絶対ダメで外泊もさせない」と固い決意。「ホントのことを言って、むしろ頻回に会っておいた方が良いのでは」と師長がアドバイスし、無能な主治医も「会った方が良いと思う」と便乗したが、涙の父の決意は代わらなかった。兄は「父の死後、保護者にはなるが、外泊、面会など論外」とそっけなく、結局その日も会わずに帰ってしまった。最後の賭けに出たK父と逃げ切りを目指すW父。どっちも本人の為を思っての決断には違いない