精神病患者の脱・施設化は失敗

 某新聞に又精神病患者の脱・施設の記事が載っていた。イタリアの様に病院を閉鎖して、地域の受け皿は臨機応変、という御気楽な論調であったが、最近OECDの手先が日本に来ていたから、記者がお先棒を担いだのだろう。でも、まともな精神科医でこのイタリアの改革を誉める人はいない中井久夫先生もどこかで「イタリアの患者は皆スイスに行っただけ」と言っていた。最近出た、イタリアの病院閉鎖前後の患者の生活環境を調べた論文でも、地域生活と入院生活では差がなかった。そして何より最大の問題は、医療刑務所だ。病院閉鎖後医療刑務所には精神障害患者が溢れ、人道上深刻な問題になっているのだ。昔のギリシアのレロス島のスキャンダルを思い出す。
 アメリカでの脱・施設前の入院患者数は56万人で現在は7万人。確かに入院患者は減っている。でも、ホームレスに20万人、刑務所に30万人いるという。で、やはりアメリカでも刑務所での患者虐待が後を絶たない。上海交通大学謝教授はこれらの状況を考えて、そろそろ西洋は再・施設化に舵を切るのでは、と分析している位なのである(上海精神医学2011 23巻)。いつも思うけど、マスコミは精神科医療の現実を正しく報道しない。他の領域でもそうなのか、精神科医療だけなのか? それとも政治が絡むとこうなるのか?