親父の悩み・僕の悩み

 僕の親父様(動脈硬化症、腹部大動脈瘤摘出後、冠動脈に3本のステント、BNPは200)88歳が、今血圧ノイローゼだ。強い降圧剤を3種類飲んでいるが、血圧が安定しないという。散歩することもなくなって、血圧ばかり測っているという。1日に10回以上測っていて、160以上ある時は頓服のアダラートを飲んで30分後に又測って、それでも高いとかかりつけ医に電話するが、大抵は看護師に様子見るように言われてお終い。でも本人は「不安で苦しい」ので、と、僕の所に電話が来て、「この位なら大丈夫、と言ってくれ」と。バカバカしいからまともに取り扱わないと、母78歳から続けて電話で、「大丈夫と言ってやってくれ」と。で、「ホントに大丈夫かどうかはホントは分からない」と言ってやろうと思って、その自分の冷たさに驚いて止めた。
 人間は自分が「いつか必ず死ぬ」という事を知っている唯一の動物である、とは言われているが、それを納得出来る人は稀だ。僕は、臨終の際に、悟り清まして涅槃に入るような死に方をした人に会った事はない。死ぬ時は皆生に執着しつつ、奇跡を待ちながら、丁度、ゴキブリが殺される寸前までジタバタするのと同じようにして死んでゆくのだ。
 多分親父は自分の死期の近いことを感じて不安なのだろう。でも僕は(自分はセコク醜く意地汚く生きているのを棚に上げて)「父はもっと悟り清まして明るく逝くべきだ」と思ってしまう。電話の後、僕は、自分の人間としてのレベルを試された気がして落ち着かなかったのでした。