自殺は東電の責任?

東電の原発事故で避難中に自殺した人の遺族が東電相手に自殺の責任を争った裁判で、裁判所は因果関係を認めた。残された遺族の苦しみは分かるし、確かに東電は悪いやつだが、だから自殺も100%東電のせい、というのは非科学的と思う。「人が死ぬのは他人の呪のせい」という理論はオーストラリアのアボリジニのものだが、そんな原始人の理論が日本の裁判所で通るのが驚きだ。それだけ東電が恨まれている、ということは分かるが、でも、この頃の自殺裁判の犯人探しは目に余る。自殺に犯人はいないはずだ。判決文は「悪意のある人の呪が本人に取り付いて、その呪が本人が自殺するように仕向けたのだ」と読めてしまうが、これでは西洋中世の魔女裁判だ。
 弁護側の主張した「うつ病には個体側の脆弱性も関連する」という意見がマスコミ・ブログで叩かれたけど、この意見は「ストレス脆弱性モデル」と言われ、精神障害発生のメカニズムを説明する標準的モデル(仮説)で、つまり、うつ病の発生しやすい素質のことで、最終的には遺伝子の異常を想定しているのだけど、精神科医はほぼ全員このモデルに従って治療をしているハズだ。例えると、原告側の「糖尿病の人が死んだのは食べ過ぎのせいだ」という主張に、弁護側が「糖尿病も関連する」と正論を述べたにすぎないのだ。
 科学が裁判で負け、世論が科学を否認する。日本人は皆、もっと理性的にならないといけないんではないかしらん。