臨終現場の幻想

 人間が死ぬとどうなるか? 身体的な現象は科学的に理解可能だが、魂の問題が残る。臨終の現場ではまるでこの魂が身体から抜け出ることが死であるように進行する。臨終に立ち会う殆ど全ての人が、患者の魂が死後もどこかにあるように行動する。研修医の頃は、この非科学的な現象に戸惑ったものだ。信心深い同僚は、これは、宗教>科学の良い実例だ、と言ったものだ。病理解剖を勧めるのにも、「抜け出た魂が解剖をして欲しいと言っているよう」とか言うと、結構納得してくれた。2万人以上の臨死体験の症例を研究したキューブラー・ロス などは、「人は死亡しても、生命は依然として存続しており、その意識は不死である」と確信した。この抜け出る魂の重さを測ろうとした医師は少なくなく、魂の重さは数gと言う事になっている。僕は初めは、一種の集団催眠ではないか、と考えた。では、誰が催眠をかけるのか? 生前の患者さんの思い出が、とも考えたけど、説得力がイマイチなのは認めざるを得なかった。そんなこんなでもう30年やってきて、魂はもう少しで見えるような気になることもあったけど、やはり魂は幻想共同幻想)、妄想(正常妄想)の一種なんだと思っている。臨床医学の世界では「死後に魂は残る」は正解なのだろう。その魂が地獄に行くか天国に行くかは、医者は分かりませんけどね。