本年一例目

 毎年僕の患者で1,2例は自殺する。今年の1例目は、入院中の40歳のアル中だった。入院中にやられたのは初めてだから、ショックは大きかった。それも、こんなんで死ねるのか、と警察が疑う程巧妙で微細な仕掛けのベット上での首縊り。「本人がその気になれば何時でも何処でも死ねる」ことは知っているつもりだったけど、これだけ上手に死なれると、悔しかった。まさか僕の病棟で、誰にもきづかれずにね。
 うつではなかったハズだ。入院2ヶ月目で、でも前日に妻に退院は後1か月待ってくれと言われていたんだよね。子供が3人もいて、3番目はまだ1歳なのにね。入院した時は950もあったr-GTが120までになったのにね。
 でも、回復しようのない依存だってのは分かってたから、退院した所で、近いウチまた飲み始めて、食道静脈瘤が爆発して死んじゃう運命だったんだろうと予測はついてはいたんだよね。だから、「どうせ死ぬのなら家族に迷惑を掛けないように」と思って病院でやったのかね。とすれば本人にとっては最高の理性的行動だったかもしれないな。いずれにしろ、バカを見るのはアル中を治そうなんていう無理無体なことを試みる精神科医ってことになるのでしょうね。2か月付き合って、奇跡は起きるかも、なんて思ったりしてたんだよね、あーあ。