2枚の遺言書

当院の内科病棟の話。80歳の甘えん坊爺さん。妻に先立たれ、同じ敷地に住む長女が面倒見ていたが、食事が摂れなくなり入院。近所に住む養女(多分彼のおめかけさん)が夜間頻繁に出入りするので、長女の希望で養女を面会禁止にした。入院後癌の末期であることが判明し、結局退院出来ずに3ヵ月後に死亡。死後長女に頼まれたという弁護士から相談があった。「彼はすでに入院前に遺言書(長女に全財産を譲る)を書いていたのであったが、当院入院時に別の遺言書(養女に全財産を譲る)が書かれていた。このままではより新しい遺言書が有効になってしまうので、入院時は彼はボケていて養女に騙されたことにしたい」、という話であった。確かに認知は進んでいたし、意識ももうろうとしていた時期であったので、元主治医は「それも有り得る」と返事をしたら今度は養女の弁護士が来て、「この病院は長女に肩入れしすぎる。養女を面会禁止にしたのも不当だ」と言う事であった。で、裁判ではどっちの遺言書が彼の真意か、という議論と共に、どっちがより真摯に彼の面倒をみていたか、が争われているという。長女と養女、お互い言い分はあるようですが、「最後まで真摯に面倒みたのはウチの病棟だ、あの2人はそろって在宅介護には反対した」と元主治医はぼやく事しきりである。