Tさんの思い出

 Tさん。入退院を繰り返していた躁鬱病ドロップアウト1年後のある夜、鍵の掛ったガラス戸の玄関の前で何やら叫んでいた。こっちからは表情が良く見えて、表情から察するにうつ状態。でも病棟は満床で、向こうは僕が当直中とは分かってないだろうと思って、警備の人に精神科医は不在と言って貰った。彼は「朝までここで待っている」と言って、ベンチに座って、泣いていた。今さら会う訳にも行かず、まあ、朝になったらすぐ診察してあげようと当直室に帰って、寝て(その頃は良く寝れたのだ)でも、朝になったら、いないのだ! その日は自殺も心配したけど、何処からも連絡がないので、次第に忘れていった。で、僕がうつになってた頃の当直の夜、僕がベンチに座って泣いている夢を見た。その僕が玄関の向こうに見ていたのは、何と白衣を着た僕自身であった。目が覚めて、悲しくて悲しくて、「これからは患者さんにもっと優しくなるんだ」と誓ったけど、 それもいつしか忘れてしまっていた。で、この前当直した時にその事を久しぶりに思い出したけど、「やはり朝まで待って貰おう」と思い直した。仕事は仕事、ナイーブに優しくしていたんじゃ潰されてしまう。Tさんも、きっと分かってくれてるハズ。謹賀新年、今年も宜しく!