認知症患者の拘束

 世間では高齢化率(65歳以上の割合)が23.3%で大騒ぎだけど、ウチの病棟(精神科療養病棟)は既に70%をオ―バーして久しい。厚生労働省拘束ゼロ運動に逆らって、2年前から転倒予防で拘束を始めてから、今では転倒予防拘束が常に4,5人になっている。昔は精神病患者の病棟に老人を混ぜるのを嫌ったけど、それは当然で、老人は唯歩いていてもちょっと触られただけで転倒するわ骨折するわで、大変なのである。若いやつが幾ら暴れても心配なことは余りないが、老人が興奮すると彼の心臓が止まるのではないか、誤嚥して窒息するのではないか、と不安になる。怖いので、ベットや車椅子に拘束するが、これがまた危険である。一回拘束されると段々拘束時間は長くなり、寝たきりになり…という悪循環が死ぬまで続くことになる。ちょっと強く締めつけると皮膚にキズが付き、床ずれが出来る。可哀そう、と緩くするとすり抜ける。すり抜けて隣の部屋に行き、そこでオムツを外しでウンコをし、そのウンコを別の老人が踏んで転倒した、という事件がこの前あった。
 2本足でどんどん歩くのが人間とすれば、ここにいる老人はもはや人間ではない。生まれたての赤ちゃんが歩けないように、寿命に近づく老人も歩けない。赤ちゃんのベッドは柵で囲うものだけど、老人のベッドを囲むのは御法度だと厚生労働省はおっしゃる。そこで精神科医は「老人に抗精神病薬を与えて静かに寝ていてもらおう」と思うのであるが、これも、ケミカルレストレイン(化学的拘束)ということで御法度らしい。老人看護の大家が「徘徊老人には、ついて歩けば良い」といっていたが、それで済めば入院はしていないョ。精神科病院を舐めるな!! というモンクは誰に言えば良いのか…