親父様のお墓

 僕の83歳の親父が僕に「墓は長男が造るものだ」と言い始めた。「死ぬ前の事なら相談に乗れるけど、死んでからの事は専門外だ」と言ったら、「日本人の常識として高齢者への対応をしろ」と言われた。「自分は実家からは独立したんだから、故郷の墓には入れないし、実家を継いでいる甥に遠慮する。自宅(東京郊外の団地)の傍の霊園で死後も団地の人と一緒なのは心寂しいし、イヤだ。生きている子孫の傍で鎮まりたい」と言う。僕が定年後何処に住むかも決めていないのに墓を作れとは困った年寄りだ。妻は妻で「私は私の好きな所に入ります」とツレナイ返事。僕の弟は「親父の言う通り」と逃げの一手で、母は「私は夫と一緒なら何処でも良い」と。で、暫くしたら今度は親父は「お墓は神道が良い」と言いだした。年寄りのワガママはキリがない。自分は父親の死に目にも会えないくらいの会社人間で高血圧や高血糖にも眼もくれなかったのに今では週2回は病院通いで、どこぞに新しい健康診断器械が入ったと聞きつけると年に何回でも検診に行く健康オタクで、でも、「自分の墓の事を考えるのは健康に悪い」のだそうだ。日本人口は減り始めたけど、死亡者は増え続けるそうだ。死に場所としての病院や施設は既に足りないんだから、多分、お墓だってそうだろう。ひそかに僕は、親父様の墓は、彼が死んでから考えようと心に決めている。で、僕自身の墓は、、、「長男に任せよう」!
   追記:去年8月に記した、「お墓の決まっている患者」はつい先日肺炎で死亡した。
   日曜の早朝だったけど、連絡したら直ぐ担当の者が来て、遺体を引き取って行ったという。「残った物は適当に処分して下さい」とのことでした。東京では一人で死ねるんですね。