また、自殺!

 当直明けの朝、警察から僕の患者の自殺を伝えられた。56歳の男の統合失調症の人で、単身で生活保護で暮らしていた。毎月キチンと通院し、日常生活にも問題はないと思われていた人だ。「このままでは入院させられる」と近所の人に言い残して、近くの川に飛び込んだらしい。遺書はない。何時もそうだけど、僕の患者さんたちは、実に淡々と静かに自殺する。高校時代に水泳で選手に選ばれたことがあることを自慢にしていたのに…。こっちはいつも「困った事があったら何でも相談してね」と言うのであるが、患者さん達は「先生に迷惑はかけられない」と言うばかり。それにしても、「このままでは…」とは何の事なのであろうか? 「辛い事もあるだろう、でも、だからって、死ぬ事はないじゃないか」といつも思う事をまた繰り返し思った。昔、若かった頃、「お世話になったけど、これから死ぬことにしました」という電話を貰ったことを思い出す。彼女はその後直ぐビルの屋上から飛び降りたのだ。そんな事言われるよりは、黙って死んでくれた方が、僕にはやはり有り難いのだろう。黙って逝くのは、僕への思いやりなのだろうか? それとも、僕は、彼にとって、唯の通りすがりの人に過ぎなかったのだろうか? …せめて遺書は残して欲しかった。自殺には理由が必要です。残された人が生き続ける為にも。