Sさんが心房細動に

 正月早々、長期入院中のSさんが心房細動による頻脈(180/分)になってしまい、内科的治療には反応せず、除細動(心臓への電気ショック)が必要になった。いつもそうだけど、精神病患者さんへの身体的な治療へのインフォームドコンセントがまた問題になった。循環器の先生は、家族の承知のない除細動はしたくない、というスタンス。でも、その家族が不在。で、循環器の先生は、僕に承諾を求めてきた。僕(精神科主治医)が承諾すれば施術する、と言うのだ。彼の保護者は病院に入金にきても面会はしない、というツレナイ人(兄弟の子供じゃ無理もないが)。こういう場合は、患者本人がはっきり意思を伝えられるなら、本人の意向を当然尊重するが、あいにくSさんは僕にも意思疎通困難。となると、メンドクサイ事が起こると家族がクレイムをつける可能性は低くない。メンドクサイ事、とはこの場合、施術せずに死亡してしまうこと、と、施術した結果副作用で身体的障害を引き起こすこと、であり、施術してもしなくてもリスクは同程度(低いことは間違いないにしても)。循環器の先生もそれを承知でそのリスクを僕に負わせようという魂胆であるのは見えていた。僕は循環器の先生の顔色を伺って(ヤブではなさそうだったので)、施術をお願いした。…結果オーライで上手くいったけど、やはり後で家族に「今後はなるべく自然のままに」、と言われた。しかし、自然のままが良いなら、退院させれば良いのだ、といつも思う。入院している以上医学的に出来る事はせざるを得ないと思う。でも確かに延命させれば良い訳ではないだろうことは分かる。精神科医に救命救急医レベルの治療を望まれても困るし。研修医の頃、気管支挿管(人工呼吸器使用)くらい出来なきゃ医者じゃないんじゃないかと思って救急科の研修をしたけど、いざ、となると、「延命させても…」という状況が大半で、今では精神科医には挿管は必要ないと思っている自分がいる…。で、結論は、精神病患者への身体的治療の決断は身体科の先生にして貰いたい、ということでありました。面と向かって言いたいなぁ…