Mr.ペースメーカー氏の最後

 自分は何回も死んで・何回も生き返っている不死身の男だ、という妄想をもっている長期入院中だった患者さんで、10年前から不整脈で心臓にペースメーカーを入れていた76歳の人が最近亡くなった。4年前に盗食したパンを喉に詰まらせた時に一時呼吸が止まったのにその後蘇生し、去年も肺炎で一時呼吸が止まってもその後蘇生したので、医局の内科の先生方から「不死身のMr.ペースメーカー」と呼ばれるようになった人だった。Mr.ペースメーカー氏は不死身の心臓を手に入れたので誤嚥や肺炎にはびくともしないのだ、と僕は信じていたのですが、その彼が数日前から肺炎になり、今回は挿管(人口呼吸器に繋げること)はしないでくれという家族の要望もあり様子を見ていたところ、酸素は十分なはずなのに血圧が低下し、ついにペースメーカーに心臓が反応しなくなり臨終を迎えたのでありました。ペースメーカーも寿命には敵わなかったのでしょうかね。でも、心臓は筋肉なのだから、生きてたって死んでたって電気には反応しなけりゃいけないのではないか、と思ったのでありますね(循環器の専門の先生に聞いた訳ではないので、話半分として聞き流して下さい)。彼は「僕は死んだら地獄に行くので、不死身は辛い」と常々言っていたのですが、どうか天国に行けていますように、と祈っています。