幻覚妄想症状に認知行動療法が効くんだって?

今、認知行動療法が流行である。幻聴は「患者の頭の中でだけのもの」で、「聞こえるだけで他に何をされる訳ではない」。妄想は「邪推」や「深読み」。いずれも客観的な状況に照らし合わせて理性的に行動すれば、自己コントロールは可能であり、それを手取り足とり教育訓練する、というのが今流行りの認知行動療法であるみたいなんですが、それは、数十年前、僕らが研修医の頃には、無効とされていた療法であるし、年配の先生方は皆、今でもそう信じていると僕は思う。ヤスパース大先生も(古いね!)、説得して納得した物は真の幻覚妄想ではない、と言っていたハズである。確かに教育されると一見理解したように行動するんだけど、いざ、再発などで症状が強くなってくると、教えて貰った事などまるで役に立たなくなってしまうのであります(総じて教育というものは実践には余り役にたたないんですけど)ね。精神病の症状が理性でコントロール出来る、という話の方が妄想でしょう、と言いたい。所謂正常者だって、理性でコントロール出来るものなど殆どないのではないか。犯罪、暴力、差別偏見、戦争、などは言うに及ばす、日常の生活だって、理性で解決不能なものが山ほどあるでしょう。
 精神病者の非理性的な所に目くじらをたてても、埒は明かない。では、どうするか、理性の手の届かないものは、取り合えず触らないで、そーっとしておけば良いと思う。幻覚だって妄想だって、世間に良くある非理性的なものの一つにすぎないのだから、つまりはお互い様で、非理性的な所もある人間同志として、幻覚妄想を人間のプライバシーの一つとして尊重することを正常者側(医療者も含む)が工夫すれば共存可能にはなるんではないでしょうかね。イスラム教者とキリスト教者が共存するより簡単なことのような気はしますが、どうでしょうか? 世界平和は精神病者との共存から始まる認知行動療法が必要なのは患者でなくて、医療者側になる。
 だから、症状のいちいちを取り上げで認知行動療法するのは重箱の隅っこの米粒探しなんじゃないかと愚考します。