本当の事は分からないもの

今回の震災での原発事故の報道で、TVキャスターや新聞のコメント等で、「何が起こっているのか分からない。誰かが何か隠しているのではないか?東電が怪しい、保安院が怪しい、幹事長が怪しい」とあったり、「これは人災だ、皆に隠していることがあるのではないか?」とあったりするのですが、これは僕の患者たちの言動と同じであり、精神医学的には“被害関係妄想”と判断されるものでありますね。報道者が妄想を発進・増幅させるのはいただけないですね。人間疑心暗鬼になると、何でも怪しくなり、その怪しさが自分の安全への脅威と感じてしまうのでしょう。災害の被害者に同情する余り、被害者の不安が報道者に乗り移ってしまい、そうなると客観的な判断が出来なくなることになるんですが、報道者は自分の精神が変調していることには気付かないものなのでしょうね。
 本当の事、1つの絶対的真実など、分かり様がないし、確かめようもないことは、何も今回の事故に限ったことではないと思う。どんな出来ごとにも表や裏、表層や深層があるものであります。“歴史の真実”なんて、後から作られるものだし。だから、この現在の未曽有の事故だって、何通りかのストーリーが作られつつあると考えて、結論はこれから皆で出すのだと考えて、その為には報道を聞いてる人の不安を煽るようなことは厳に慎まなければならないハズでしょう。それなのに、被害妄想で何でもかんでも疑うような態度で報道するから、聞いてる方に妄想が移って、例えば買いだめに走ってしまうような事態になるのだと思う。
報道者は、患者の症状が移らないようにする精神科医のインタビューの仕方を学んで欲しいものである。同情するだけでは仕事にならないのでありますョ。