安定剤のこと

精神科で使う薬については、最近はすこぶる評判が悪い。薬屋さんがやり玉に上がることが多いが、彼らにとっては商品なんだから、宣伝して何が悪い、というのは本当にそうだ。確かに誇大宣伝も多く、自賛するほどの効果はない薬は多いし、当然副作用もあるが、薬屋さんは隠したがる傾向にあるのは間違いない。薬で性格は変えられないのは常識であるが、そう断言することは、薬屋さんは絶対しない。しかし、薬は、上手に使いこなせれば非常に便利なものである。患者にとっては運が良ければ、ということになるんでしょうが、実際感謝されることは多い。効かない人は外来に来なくなっちゃうから、当たり前と言えば当たり前だけど、僕の外来には、薬賛美者が多い。世間でも、3分診察の精神科医がこれだけ流行るのも、「効いてる、便利だ」、と思う人が多いからでありましょう。
 例えば、うつ状態。いろいろ反省して、自分の欠点を意識して、対人関係を整理して、日常の行動を健康的にして、、といろいろ時間をかけなくちゃ、本来なら治らない。そして、不安、焦燥感。実にいやな感じで、苦しくて、むなしくて、パニック発作にでもなれば救急車のお世話にもならなきゃならいが、自分の生き方を何とかしないと本来なら治らない。しかし、これが不思議なことに、月に1回病院に行って、もらった薬を言われた通り飲むだけで、(上手くいけば)それなりの生活が再び出来るようになってしまうのだから不思議である。
 僕がうつ病になって薬を飲み始めた時も、「何て便利なんだろう」と実感したものです。今も安定剤をまだ飲んでいるんだけど、とにかく、止めて見ると寝れなくなったり、動悸がしたり、昔の苦しさが蘇えるので、止められない。こういうのを、薬物依存だ、と声高に叫ぶ人もいるけど、依存だとしても、本人が納得してればそれで良いのではないか、と思うようになってきているんですね。仕事のやり方を変える、とか、家庭生活の問題を解決する、なんて、今さらめんどくさくて出来はしない。あと数年で定年だし、、、僕には夕食には米のメシが欠かせないけど、これも依存と言えば依存でしょうけど、今さらパンに変える必要はないハズだ。それで良いのではないか、と自分に都合の良いように考えるのであります。
 日常の診療では患者さんたちの、副作用を早期にチェック出来るようにして大きな事故や障害に至らないようにするのが僕の仕事であると思っています。精神療法、なんて高級な治療は、僕には出来ない、と悟りきってしまいました。
 *患者さんの側での参考書は、下田治美、精神科医はいらない。大原広軌、精神科に行こう、ツレがウツになりまして、細川貂々、などですか。