僕(精神科医)はうつ病でした。

当時は認めたくなかったんだけど、実は数年前から、患者さんたちと話すことが苦痛になってきて、楽しみだった臨床が重荷になってきていて、長く付き合っていた患者とけんか別れみたいなことが数回重なって、また、年に必ず1人は出る患者の自殺に耐えられなくなってきていて、自分の年を感じるようになり、当直がめんどくさくなっていた。で、その頃、精神経学会の認定医試験に落第したことがきっかけで、寝付きが悪くなって、動悸がし、冷や汗が出るようになってきて、趣味の庭いじりやパチンコもめんどくさくなってしまった。「これじゃ患者じゃないか」と気づいてはいたが、そんな自分を認めるのがいやで只管ガマンの生活をしているうちに、仕事はイヤになるは自信はなくなるは新患が怖くなるはで、ついに一睡も出来ない日が2晩続いて、生きているのがイヤになっている自分に驚いて、同僚に相談(診察)したら、「やっぱり薬飲んだ方が良いだろう」ということになった。同僚に「死んじゃダメだよ」、と言われた時の、あのむなしい感じは今でも忘れられない…。妻はすでに気づいていた
 SSRIは胃がムカツイて飲めず、ドグマチールデパスと眠前にレンドルミンを服用し3か月、ようやく少しは頭が動くようにようになって反省するに、精神医学の知識はうつ病の治療に殆ど役に立たなかった。何でもそうだけど、知ってることと、実行することは、別の事なのだ。「好きなこともストレスになる」とは知っていたけど、まさか患者診察がストレスになるとはね…、反省。
 で、ソクラテスじゃないけど、自分は精神病について何も知っちゃいなかったことに気がついた。今さらだけどね。すると、精神医学の流行に遅れまいと雑誌やネットで新しい知識を精いっぱい勉強していた以前の自分が、馬鹿らしくなってしまった。「そんな知識は患者の為にはならないよ」ということを自分で確かめた訳ですね。うつ病になったことを自分の肥やしにして仕事をしようと決心したのですが、自分の患者に「自分もうつ病だった」、とはまだ、言ってませんね。言ってもしょうがないでしょう。まだ服薬中で、完全に治った訳でもないしね。
※励まされたのは、やはり精神科医うつ病になったとの、泉基樹先生や、蟻塚亮二先生や、宮島賢也先生や高田明和先生の(この人は基礎医学の教授)告白本でした。あと、納得したのは、織田惇太郎さんの、医者にウツは治せない、ですね。