精神科長期在院患者の退院促進反対!

ここ数年、他の精神科病院に長期在院していた患者が退院し、通院するのでよろしく、との紹介状をもって僕の外来にくることになった人が4人います。保健所なんかがやっている、退院促進事業かなんかに唆されて、というようなのですが、予想通りに本人達は、みな、また入院したがっているんです。皆単身で、50代ですが、「地域でいても楽しいことは何もない」と言うんですね。元の病院に入院の相談しても乗ってくれないから、僕の所属する病院に入れてくれ、と言う人もあり、うち2人は病院付属の福祉施設に入ってもらったんですが、当院にも長期在院者は溢れているわけで、これは困ったことであるんです。非精神病者でも年を取ると、地域での生活は難しくなってくる。特に単身ではなおさらでしょう。認知症(痴呆)も地域で、というお国柄だから、いくら言ってもしょうがないんだけど、病院追い出されて地域で生活出来ない人は、いったい何処へ行ったら良いのでしょうかね?
 精神科病院入院している、ということはそれだけで患者にトキシック(有害)である、という、まことしやかな言説が、行政やマスコミを支配しているのは、困ったことであります。今の日本の退院促進政策は、1970年代のアメリカのJFケネディーの取った施策のマネをしているのだと僕は思っているんですが、このアメリカの脱施設政策は、本家アメリカでも失敗とされている代物なのであります。退院した患者の大半は行き場を失って、結局ホームレスになり、ナーシングホームに入り、刑務所に入ってしまったのでした。閉鎖され廃墟となった元の精神病院に潜入して暮らしていた人もいたというくらいです。そういう僕も若い頃は退院促進派で、長期在院患者をかなりムリして地域に退院させた人は30人位はいましたが、残念ながらその後の経過は再入院が1/3、施設入所が1/3、残りの地域で生活出来ている人も大半は引きこもりで、うまく地域に溶け込めた人は数人にすぎなかったのでありました。アルバイトも含め、復職者はゼロ世の中そんなに甘くないのでありました。「精神障害者を受け入れる」と称する作業所や在宅支援センターも、若い、入院体験の余り長くない患者には良さそうですが、長期在院後退院の中年・高年患者には適さないようであります。
 そもそも、地域で受け入れられていれば、長期入院にはならないはずではないでしょうか。地域で受け入れられなかったからこそ、長期に入院していたのでありましょう。長期在院者は、世間の荒波をさけるために長期在院しているのであるからして、今さらそれをムリヤリ退院では、可哀そうだ、と思うのであります。ましてや、退院後、他の病院の見ず知らずの先生におまかせ、とは、同業者として、情けなくなるのであります。