ナショナリズム

 ナショナリズムは精神医学的には「妄想」だと思うけど、吉本隆明の言う「共同幻想」だから、強制的には治療が必要とはされない。イギリスはこの妄想でEUを離脱してしまったし、ドイツでは移民排斥の怪しい雰囲気が漂っている。精神病患者で、ナショナルに「目覚めた」と言い出すのは、大抵再発の前兆だ。ナショナリズムは言いだされると実に訂正がムズカシイ。TPOのはっきりしている異常体験なら、例えば「屋上に宇宙人が居る」などは屋上に連れて行けば納得するけど、ナショナリズムは、「盗聴器」と同じくらいの難題だ。「ナショナリズムは異常」とは分かっていても、例えば「尖閣諸島領域に中国の漁船240隻」なんて話を聞くと、精神科医(僕だけでなく)でも嫌中意識が高まるのを押さえられない。理性ではおかしいと思っても、自分の感情が抑えられない。人間は理性的に行動すべきだ、という倫理感は持ってるけど、生物は総じて理性的ではないのはいたしかたないようだ。地球で戦争や紛争が何時まで経っても終わらないのは、人間が生物だからなのだと、現実を肯定せざるを得ない。でも、患者のナショナリズムは、再発と思って治療すると大抵は目立たなくなっていくように、いわゆる正常者のナショナリズムも、そこに焦点を当てなくても、事を荒立たせなければ、自然に収まっていくのかもしれないと思うのだけど。。ナショナリズムわき役の本能なのだね。