どうして自殺してはいけないか?

 長年患者の話を聞いてきて、患者が何を言おうと、大抵のことには対応が出来るようになったと思ってはいるけど、未だに、それは言わないで、という言葉があって、それが、「どうして自殺してはいけないか」である。患者がそれを言い出すのではないか、と予感し始めた当たりから、僕の手のひらからは汗が出はじめ、心臓は拍動を早くする。その話を避けようと別の話題に持っていこうと焦り、上手くいってもその後の患者の話は上の空だし、上手くいかない時や、突然に言われた時には、一貫の終わりで、僕の頭はフリーズしてしまうのである。患者に、「僕が職業的に営業として患者に同情している振りをしている(ホントはそんな事ないんだけど)」のを見抜かれてしまったのではないか、と、どうしても思ってしまい、次の一言によっては、患者は僕と心中でもするつもりなのではないか、と患者が怖くなってしまうのであります。これは多分投影的同一視と言う機制なんだろうし、僕が何と答えようと、別に患者との話は乱れずに進んで行くだろうことは十分理解はするようになったのだけど、それでも、目の前の患者が怖くなってしまうのですネ。取り敢えずは「僕も含めて残された人が辛い気持になる」、と言う様に練習はしているのだけど、恥ずかしくて、白けてしまって、その後暫くの間(外来では1か月、入院で1週間位)は、治療にならないのです。まあ、精神科医には出来不出来があって、もっと嘘吐きになれる人もいるんだろうけど、でも、宗教でなくて、科学として、「どうして…」の答えはないのではないか、と僕には思われるのです。僕なりの人生途中での結論ですが、虚無的ですかねェ。